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千葉地方裁判所 平成2年(ワ)1113号 判決

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金一六八二万〇六六二円及びこれに対する昭和六三年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して、金二六八一万九二九六円及びこれに対する昭和六三年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  右1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、原告が、追突事故により傷害を負つたとして、加害車両の運転者に対して民法七〇九条に基づき、加害車両の保有者に対して自動車損害賠償保障法三条に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故(以下「本件事故」という。)の発生

昭和六三年六月二六日午後一時五〇分頃、千葉県木更津市木更津三丁目九番六号先道路の君津方面から千葉方面に向かう車線上で、原告の運転する普通乗用自動車(千葉五九む七三九二、以下「被害車両」という。)が右折の合図を出して停止していたところ、普通貨物自動車(千葉四五て八八二六、以下「加害車両」という。)を時速約四〇キロメートルの速度で運転して、被害車両に後続してきた被告細野進が、前方注視義務を怠つた過失により、被害車両の後方約九・五メートルの地点に至つて、被害車両が前方に停止しているのを初めて認め、急制動の措置を講じたが間に合わず、被害車両後部に加害車両前部を衝突させた。

2  責任原因

被告細野達は、加害車両を運転し、前方注視義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償する責任を負う。

被告細野徹夫は、加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償する責任を負う。

3  原告の治療状況

(一) 昭和六三年六月二七日 千葉市立海浜病院に通院

(二) 同月二八日から同年七月三〇日まで 真砂クリニツクに通院

(三) 同年七月三一日 栗山中央病院に通院

(四) 同年八月一日から同年九月三日まで 同病院に入院

(五) 同年九月四日から平成元年九月二六日まで 同病院に通院

(六) 平成元年九月二九日から同年一二月八日まで 鹿教湯病院に入院

(七) 同年一二月一四日以降 栗山中央病院に通院

4  損害の填補

原告は、本件事故による損害の填補として、四四三万一四六三円の支払を受けた。

二  争点

1  本件の争点は、本件事故と相当因果関係を有する原告の傷害の内容・程度及び原告の損害額である。

この点について、原告は、本件事故により、外傷性頭頸部障害・外傷性両膝関節炎・腰椎捻挫等の傷害を負い、その治療のため、前記一の3のとおりの入院ないし通院を要したと主張して、被告らに対し、後記2の損害額合計三一二五万〇七五九円から前記一の4の損害の填補額を控除した残額である二六八一万九二九六円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

これに対し、被告らは、本件事故と相当因果関係を有する原告の傷害は、長くとも三か月の通院により全治する程度の外傷性頸部症候群の傷害にすぎず、したがつて、原告の損害額は、右損害の填補額の範囲内であると主張する。

2  原告主張の損害額

(一) 治療費 二四二万〇九四〇円

(1) 千葉市立海浜病院 三八一〇円

(2) 真砂クリニツク 一一万〇二八〇円

(3) 栗山中央病院 一九五万三五〇〇円

(4) 鹿教湯病院 三五万三三五〇円

(二) 入院雑費 一三万六五〇〇円

一日当たり一三〇〇円の一〇五日分

(三) 入・通院交通費 七五万六一九八円

(1) 真砂クリニツク・タクシー代(昭和六三年六月三〇日から同年七月三〇日まで) 一万四七八〇円

(2) 栗山中央病院・タクシー代(昭和六三年九月三日から平成元年一二月まで) 七二万三八九八円

(3) 鹿教湯病院・電車代 一万七五二〇円

(四) 休業損害 三八〇万六五五〇円

原告は、本件事故による受傷のため、昭和六三年六月二七日から平成元年一二月八日まで、全く稼働不能の状態にあつたから、賃金センサス昭和六三年第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の全年齢平均年収額二五三万七七〇〇円を基礎とし、これに一・五を乗じると、三八〇万六五五〇円となる。

(五) 逸失利益 一一六九万二四五三円

原告は、平成二年四月一六日に両膝関節機能傷害により第四級の身体障害者と認定されており、平成元年一二月九日以降両膝関節機能障害等の傷害により五〇パーセント以上の稼働能力を喪失したから、右年収額二五三万七七〇〇円を基礎とし、就労可能年数を一二年として、新ホフマン方式(係数九・二一五)により逸失利益を算定すると、一一六九万二四五三円となる。

(六) 慰謝料 一〇〇〇万円

(七) 弁護士費用 二四三万八一一八円

第三争点に対する判断

一  本件事故と原告の傷害との相当因果関係等

1  本件事故の状況・態様

証拠(甲一、二、一〇、乙一の3、5ないし9、一〇、一一、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告(昭和一〇年七月七日生、当時五二歳)は、本件事故当時、助手席に同乗者(当時四四歳・男性)を乗せて、被害車両(車幅一六一センチメートル、車両重量九七〇キログラム、イスズジエミニ)を運転し、国道一六号線の君津方面から千葉方面に向かう車線(片側一車線、車道幅員三・二メートル)を走行中、反対車線に面する飲食店の駐車場へ被害車両を進行させるため、右折の合図を出してセンターラインに寄り、サイドブレーキを引いて被害車両を停止させ、対向車が行き過ぎるのを待つていたところ、加害車両に衝突された。

被告細野進(当時一八歳)は、本件事故当時、助手席に同乗者(当時一八歳・男性)を乗せ、被害車両に後続して、加害車両(車幅一六五センチメートル、車両重量一〇五〇キログラム、ダツトサン)を運転し、時速約四〇キロメートルの速度で右車線を走行中、助手席に顔を向けて同乗者と話をしていたため、被害車両の発見が遅れ、被害車両の後方約九・五メートルの地点に至って、被害車両が前方に停止しているのを初めて認め、急制動の措置を講じたが間に合わず、被害車両後部に加害車両前部を衝突させた。

(二) 右衝突により、被害車両は、衝突地点から約三・九メートル前方に押し出されて停止し、加害車両は、衡突地点から約一・六メートル前方の地点に停止した。

被害車両は、右衝突により、後部バンパー右側が相当程度へこみ、これにより、後部トランクが持ち上がる状態となり、これらの修理に約五〇万円の費用を要した。

加害車両は、右衝突により、前部バンパー右側が曲損し、前部ボンネツトが持ち上がる状態となった。

(三) 原告は、本件事故当時、シートベルトを着用していたが、右衝突により、運転席を車体に固定していた止め金が外れたため、座席ごと後部座席へ倒れて仰向けとなり、両足が宙に浮く状態になつた。

原告の同乗者は、本件事故当時、座席(助手席)を後方へ傾けていたが、右衝突により、額を切り、本件事故当日、栗山中央病院で診察を受け、昭和六三年六月二八日から同病院に入院し、同月三〇日、同病院の医師より、外傷性頭頸部障害により約三週間の安静加療を要する旨の診断を受けた。

被告細野進及びその同乗者には、本件事故による受傷はなかつた。

2  原告の傷害と治療の経過

証拠(甲三、五、七の1ないし5、一〇、一四の2、4、7、乙二の3、4、三の1ないし3、四の1、2、八、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和六〇年頃、突発性難聴により千葉市立海浜病院で治療を受け、昭和六二年頃、五十肩により真砂クリニツクで治療を受けたことがあるが、本件事故当時は、通常の日常生活を営んでいた。

(二) 原告は、本件事故直後、原告の同乗者との関係が家族等に知れることを慮り、救急車に乗ることを断つて、一人でタクシーで帰宅したが、翌日の昭和六三年六月二七日、千葉市立海浜病院で診察を受け、主として頸部・背部・肩部の痛みを訴えたところ、頸椎捻挫により二週間程度の加療を要する見込みであると診断された。

(三) 原告は、昭和六三年六月二八日から同年七月三〇日まで真砂クリニツクに通院した(実通院日数二〇日)。

原告は、同年七月一日(本件事故の五日後)、右病院の医師に、右膝が曲がりにくい旨の自覚症状を訴えた。

右病院は、原告の傷病名を頸椎捻挫と診断し、右期間中、原告に対し、投薬のほか、頸部・腰部・右膝部の鍼治療を行つた。

(四) 原告は、症状が改善しなかつたため、昭和六三年七月三一日に栗山中央病院で診察を受け、同年八月一日から同年九月三日まで右病院に入院し(入院日数三四日)、同年九月四日から平成元年九月二六日まで右病院に通院した(実通院日数二〇六日)。

原告は、昭和六三年八月八日(本件事故の四三日後)、右病院の医師に、両膝に痛みがある旨自覚症状を訴えた。

右病院は、原告の傷病名を、当初は、外傷性頭頸部障害、右膝外傷性膝関節炎と診断し、その後、外傷性頭頸部障害、外傷性両膝関節炎、腰椎捻挫と診断し、右期間中、原告に対し、投薬のほか、頸部・腰部・両膝部に注射や牽引を行うなどの治療を施した。

(五) 原告は、右病院の医師の紹介で、平成元年九月二九日から同年一二月八日まで鹿教湯病院に入院した(入院日数七一日)。

右病院は、原告の傷病名を頸椎捻挫、変形性膝関節症、変形性脊椎症と診断し、右期間中、原告に対し、投薬、リハビリテーシヨン、鍼灸等の治療を施した。

同年九月二九日現在の他動による原告の膝関節の可動域は、右膝が屈曲一三〇度、左膝が屈曲一五〇度であつた。

同年一二月四日現在の他動による原告の膝関節の可動域は、右膝が屈曲九〇度、左膝が屈曲一三〇度であつた。

原告は、右病院の医師から、治療の経過及び治療の見通しとして、「頸部・腰部の痛みと可動域は改善したが、右膝の痛みは改善がない。」旨の診断を受け、「これ以上は治らない。」と言われた。

(六) 原告は、平成元年一二月一四日から、再び栗山中央病院に通院をしたが、右通院を開始して間もなく右病院の医師から、「これ以上治療をしてもあまり症状は好転しない。」と言われた。

平成二年三月頃の他動による原告の膝関節の可動域は、右膝が屈曲九二度・伸展マイナス二七度、左膝が屈曲九二度・伸展マイナス二七度であつた。

原告は、同年四月一六日付けで、傷害名を交通事故による両膝関節機能傷害とする等級四級の第二種身体障害者の認定を受け、千葉県から身体障害者手帳を交付された。

原告は、自動車損害賠償責任保険に対し、その頃、後遺障害による損害につき保険金の請求をしたところ、右請求は認められなかった。

3  平成五年当時の原告の膝関節の可動域

証拠(鑑定人長谷川幸治)によれば、平成五年五月六日現在の他動による原告の膝関節の可動域は、右膝が屈曲九〇度・伸展マイナス二五度、左膝が屈曲一一〇度・伸展マイナス二〇度であつたことが認められる。

4  鑑定の結果等

(一) ところで、鑑定人高取健彦の鑑定の結果の要旨は、次のとおりである。

〈1〉 被衝突車にダミーを乗せて行った同鑑定人の車両追突実験の結果によれば、ダミーは、衝突時に、シートと共に後部座席の方へ移動し、その後、ダミーの上体が前方へ移動したが、本件事故における原告の挙動も右実験の結果と類似していたといえ、また、ヘツドレストレイントが装着されている被衝突車にボランテイアを乗せて行つた同鑑定人の車両追突実験の結果によれば、ボランテイアの上体は、追突に際し、後方に傾斜し、続いて前方に傾斜するのみで、頸部に過伸展も過屈曲も起こらず、むち打ち運動は発生しなかつたところ、本件事故の被害車両には、ヘツドレストレイントが装着されていたので、原告の頸椎捻挫は、本件事故により惹起されたものではなく、仮に本件事故の過程により原告の頸部の軟部組織に損傷が惹起されたとしても、四週間ないし一二週間位の通院加療により治癒する程度のものである。

〈2〉 腰部は、頸部よりも大きな荷重に耐えられるように構築されており、原告の腰部についての自覚症状は本件事故と因果関係がない。

〈3〉 原告の膝部は、本件事故時に車体に衝突し、あるいは車体へ圧迫された形跡がないので、同部位の変形性関節症は、経年的変化によるものであり、その経年的変化が昭和六三年八月から約一年の間に増悪したものであつて、本件事故と因果関係がない。

(二) しかしながら、前記1の(三)のとおり、原告は、本件事故の衝突により、座席ごと後部座席へ倒れて仰向けとなり、その両足が宙に浮く状態になつたのであるから、本件事故における原告の挙動が右〈1〉の各実験の結果と類似していたということはできず、また、前記1の本件事故の態様に鑑みれば、右〈3〉のように、本件事故時に原告の膝部に何らの外力も作用しなかつたと断定するのは、早計に過ぎるとの感が否めないことのほか、右鑑定においては、原告の膝部の経年的変化が昭和六三年八月から約一年の間に増悪した理由について、何ら合理的な説明がされていないことをあわせ考えると、右鑑定の結果は、にわかに採用することができない。

(三) 他方、鑑定人長谷川幸治の鑑定の結果及び証人長谷川幸治の証言の要旨は、次のとおりである。

〈1〉 原告の頸椎には神経学的異常はないが、頸部の所見としては、平成五年五月六日現在かなり頑固な疼痛を残しており、この痛みは、本件事故直後から原告がこれを訴えていることから、本件事故と強い因果関係がある。

〈2〉 本件事故の約二か月後である昭和六三年八月二三日に原告を撮影したレントゲン写真から見て、原告の腰部には、本件事故当時、既に変形性脊椎症の症状があり、これが、本件事故により一時的に増悪し、その後、右事故当時の症状に回復したものと考えられる。

〈3〉 原告の両膝は、平成五年五月六日現在変形性膝関節症となつている。

変形性膝関節症は、老化、肥満、重労働、遺伝、外傷等の様々な要因により発症するものであるが、一般に、関節裂隙(軟骨の厚さ、通常は五ミリメートル以上)の狭小化で評価されるものであるところ、原告を撮影したレントゲン写真によれば、原告の右膝内側の関節裂隙は、昭和六三年八月一日当時には四・五ミリメートルであつたが、平成二年六月一六日当時には一・五ミリメートルへと急速に狭小化しており、二年以内にこれほど急速な関節裂隙の狭小化をレントゲン上確認できるのは、極めて稀であること、本件事故後間もない時期の原告のレントゲン写真によれば、原告の膝関節の老化の程度は軽度であること、原告は、本件事故の五日後に右膝の異常を訴えているが、一般に、患者が医師に対し、より大きな異常を感じる部位の異常を先に訴え、その他の部位の異常を遅れて訴えることは往々にしてあることなどからすると、原告の右膝の変形性関節症は、本件事故に際し、原告が被害車両に右膝部を打つなどして、右膝部に何らかの外力が作用し、これに誘発されて増悪したものと推察される。

他方、左膝については、原告が本件事故の四三日後にその異常を訴えていることから、原告の左膝の変形性関節症は、原告が本件事故により右膝を負傷し、これを庇うために左足に体重がかかり、これに誘発されて増悪した可能性が強いと考えられる。

(四) そして、右鑑定の結果及び右証言は、前記1及び2の事実に照らし、その論拠において合理的かつ自然であると認められるから、これを採用するに足りるものと評価することができる。

5  以上によれば、原告は、本件事故により、頸椎捻挫及び変形性右膝関節症の傷害を負うと共に、変形性脊椎症の増悪を余儀なくされ、また、間接的ではあるにせよ、本件事故に起因して、変形性左膝関節症の傷害を負つたものであり、本件事故とこれらの傷害との間には相当因果関係があるものと認めるべきである。

そして、以上の事実関係に照らすと、本件事故による原告の傷害は、鹿教湯病院を退院した日である平成元年一二月八日には症状固定の状態となり、右膝については、「関節の機能に著しい障害を残す」という後遺障害が残り、左膝についても、少なくとも「関節の機能に障害を残す」という後遺障害が残つたこと及び右症状固定日までにされた治療は、原告の受けた傷害の治療として必要かつ相当なものであつたことが認められる。

二  原告の損害額

1  治療費 二二三万五二六五円

証拠(甲七の1、一二の2、3、一三、一四の1、3、5、6)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、右症状固定日までに、本件事故による傷害の治療のために要したと認められる治療費は、次のとおりである。

(1) 千葉市立海浜病院 三八一〇円

(2) 真砂クリニツク 一一万〇二八〇円

(3) 栗山中央病院(平成元年九月二六日まで) 一七六万七八二五円

(4) 鹿教湯病院 三五万三三五〇円

2  入院雑費 一二万六〇〇〇円

入院雑費は、前記入院日数合計一〇五日の期間を通じて、一日当たり一二〇〇円と認めるのが相当である。

3  入・通院交通費 六四万三一七〇円

証拠(甲一六)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、右症状固定日までに、右各病院への入・通院のために要したと認められる交通費は、次のとおりである。

(1) 真砂クリニツク・タクシー代 一万四七八〇円

(2) 栗山中央病院・タクシー代(平成元年九月二六日まで) 六一万〇八七〇円

(3) 鹿教湯病院・電車代 一万七五二〇円

4  休業損害 三〇〇万〇〇四八円

証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、化粧品の訪問販売の仕事とミシン掛けの内職により、毎月約一〇万円の収入を得ると共に、家事労働に従事していたことが認められるので、賃金センサス昭和六三年第一巻第一表の産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の全年齢平均年収額二五三万七七〇〇円を基礎として、原告の休業損害を算定するのが相当である。

そして、右稼働状況に、前記の原告の傷害の内容・程度及び入・通院状況等をあわせ考慮すると、原告は、本件事故の翌日である昭和六三年六月二七日から右症状固定日までの合計五三〇日間のうち、右入院日数合計一〇五日及び前記実通院日数合計二二八日の合計三三三日については、一〇〇パーセントの就労制限を受け、その余の一九七日については、五〇パーセントの就労制限を受けたものと認めるのが相当であるから、原告の休業損害は、次の計算式のとおり三〇〇万〇〇四八円(一円未満切捨て)となる。

(二五三万七七〇〇円÷三六五)×(三三三+一九七×〇・五)=三〇〇万〇〇四八円

5  逸失利益 六七四万七六四二円

前記の原告の後遺障害の内容・程度及び稼働状況・年齢等を考慮すると、原告は、右症状固定日から一二年間就労が可能であり、その間、労働能力の三〇パーセントを喪失したと認めるのが相当である。

そこで、前記年収額二五三万七七〇〇円を基礎に、ライプニツツ方式(一二年のライプニツツ係数八・八六三二を係数として用いる。)により年五分の中間利息を控除して、右期間の原告の逸失利益の本件事故当時における現価を算定すると、次の計算式のとおり六七四万七六四二円(一円未満切捨て)となる。

二五三万七七〇〇円×〇・三×八・八六三二=六七四万七六四二円

6  慰謝料 七〇〇万円

前記の原告の傷害が内容・程度、治療経過及び後遺障害の内容・程度等、諸般の事情を総合すると、原告の精神的苦痛に対する慰謝料は、七〇〇万円をもつて相当と認める。

7  以上1ないし6の損害合計一九七五万二一二五円から、前記争いのない損害の填補額四四三万一四六三円を控除すると、損害残額は、一五三二万〇六六二円となる。

8  弁護士費用 一五〇万円

本件事案の内容、審理の経過、認容額等に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一五〇万円と認めるのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告の本訴請求は、被告らに対し、連帯して、損害賠償金一六八二万〇六六二円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六三年六月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 河本誠之 安藤裕子 有賀直樹)

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